2006年11月6日月曜日

INTERVIEWING GLENN TILBROOK(2)

さて、インタヴューの後半です。ここでは、個別の曲をとりあげて、特に歌詞 の解釈などについていろいろ聞いてみました。スクィーズ時代の曲について は、もちろん作詞をしたのはグレンではなく、クリスなので、あれこれ突っこ んだ解釈を聞くのはちょっと筋違いかなとも思いましたが、グレンは丁寧にいろいろ考えながら答えてくれました。このインタヴューでの回答は、あくまでも歌い手としてのグレンによる歌詞の解釈であって、作詞者であるクリス本人の意図を必ずしも忠実に反映したものではないかもしれないことは、一応ご承知おきください。

Q:「PICCADILLY」に出てくる、'Heart like a gun was just half of the battle' というフレーズの解釈は?

グレン:ことわざとかそういうものではなくて、クリスが発明した表現なん だ。恋愛関係では、心(heart)というものは、鉄砲(gun)と同じように、ときには武器として使える、というような意味かな。というのは今思いついた説明なんだけどね(笑)。とても調子のいいフレーズだから好きなんだ。

[補足] 「鉄砲のような勇敢なハートがあれば、勝ったも同然」あるいは「鉄砲のような向こう見ずなハートがあっても、まだ勝ったと決まったわけじゃな い」という感じでしょうか。結局わかったようなわからないような(笑)。コ ンサートに行かれた方であれば、スケッチブックに書かれたこのフレーズのコ ーラスを強要させられたのは(笑)、記憶に新しいことと思います。ちなみに グレンは、インタヴューの中で「クリスが発明した表現(Chris' invention)」という言い方を何度かしていましたが、これは昔からあることわざとか、流行言葉の引用ではなく、クリス自身が考えついた特別な意味あいのあるフレーズということです。

Q:「JOLLY COMES HOME」のサビのフレーズ、'Wearing his dinner, Jolly comes home again'というのは、どういう状況を表しているのでしょうか?

グレン:(真剣な顔をして考えながら)クリスはよく家庭における男女の不和 (ときにはDVなど)をテーマにした歌詞を書いていて、これもそういう曲の1つだね。'wearing his dinner'というところは、怒った妻が夕食の料理をひっくり返して、夫の服が汚れてしまったということで、昔のコメディなんかのちょっと誇張された夫婦げんかのイメージを思い浮かべればいいと思う。 Jollyというのは、夫のことなんだけど、男の名前そのものということではなくて、陽気な性格、気分のようなものを表している。でも、この男は陽気とは まさに正反対の陰気な性格なので、陽気であるのはあくまでも一時的なもので、ハッピーエンドではないんだ。(ここで「最後に2人は和解するんだから、一応はハッピーエンドなんじゃないの?」と野崎さんと私で突っこむと、 グレンは最後のあたりの歌詞を自分で復唱しながら)そうだね、そういうことなんだね(と自分で納得)。でもこの男はどうせまた同じことを繰り返すんだから、やはりあくまでも一時的なパッピーエンドなんだ(笑)(と最初の自分の解釈にこだわるグレン(笑))。

[補足] ちなみに、この曲はインタヴューしたその日の夜(3日目)に歌ってくれたのですが、'wearing his dinner this evening'のところで、グレンは 最前列で見上げていた私に、「ここの意味がわかったでしょ?」という感じで ウィンクをしてくれたのが、思いがけず個人的なハイライトとなりました。サ ービス精神が旺盛なグレンですね。

Q:「NEPTUNE」に出てくる「海王星(Neptune)」と「天王星(Uranus)」の由来を教えてください?

グレン:この曲はアメリカ・ツアー中に行った「ネプチューン」という名前のバーで思いついた曲だから、こういうタイトルになったんだ。そして当時クリ スとはあまりいい関係じゃなかったので、こういう感じの歌詞になった。彼は言うこととやることが全然違うということがよくあったからね。今はもちろんそうじゃないし、仲直りしてるから、この歌詞はちょっと問題あるんだけど (笑)。曲はとてもいいから好きなんだ。'Uranus'が、'your anus'とかけことばになっているというのは、実はあとから気がついたんだ(笑)。

[補足] 昨年の来日公演では、毎回のようにこの曲を歌ってから、まるで埋め合わせをするかのように、クリスがいかに素晴らしい作詞家であるかということを紹介したあとで、彼らがともにスクィーズの最高傑作と自負する「SOME FANTASTIC PLACE」を歌っていましたね。「Neptune」の歌詞については、グレンはやはり微妙に気にしているみたいです(笑)。

Q:「PULLING MUSSELS (FROM THE SHELL)」のサビの部分は、いったいどういうことを歌っているのでしょう?

グレン:ウィリアム・テル(William Tell)と修道女マリアン(Maid Marian)という2人は、それぞれ全然別の物語からとられていて、ウィリアム ・テルは、子どもの頭にリンゴを乗せてそれを弓矢で射抜いた人。修道女マリアンは、ロビン・フッドの恋人だった女性のこと。'pulling mussels from the shell'(ムラサキイガイの殻から貝の身を引きはがそうとしている)とい うのは、もちろんエッチなニュアンスがあるんだけど(グレンは、たしか 'shagging'という言い方をしていました)、そういう意味がもとからあるわけではなくて、クリスの発明した表現(Chris' invention)なんだよ。

[補足] グレンは、ウィリアム・テルが弓矢を射るジェスチャーまでしてくれたのですが、おそらく目標に向かって矢を放つというイメージそのものが、ここではセクシャルなメタファーになっているということなのでしょう。また、 何か特別な意味があるのかと思って、'pullling mussels'をインターネットで いろいろ検索して調べたら、ムラサキイガイ(mussels)の写真がたくさん出てきたんですよというと、グレンに大受けしていました(笑)。

Q:「VANITY FAIR」に出てくる'put her eyebrows in tin box'というのは?

グレン:昔はタバコが缶に入っていて、その空き缶を小物入れに利用している人が多かったんだ。ここは、眉毛に化粧するペンをタバコの空き缶にしまっているということ。
「VANITY FAIR」というタイトルは、サッカレー(William Thackeray)の本 (もしくはそれを原作とする映画で、邦題は『虚栄の市』)から来ている。クリスはよく映画や本からタイトルを引用しているけれど、必ずしも詞の内容がもとの作品と直接関係があるというわけではないんだ。「UP THE JUNCTION」 なんかも同じで、元の映画となにか直接関係があるというわけではないんだ。

Q:「IS THAT LOVE?」のストーリーについて少し説明してくれますか?

グレン:これも家庭の不和がテーマになっている曲だね。'funny how you still find me right here at home'というところは、あんなに怒って出て行 ったきみが、こうして家に戻ってきてみると、ぼくがまるでせいせいしたよと いう感じでテーブルに脚を上げて、酒と読書でくつろいでいる姿に出会うとい う状況のおかしさを描いているんだ。エンディングでは、彼女がベッドのシー ツを直してくれた指のあとが残っているという描写で、一見ハッピーエンドに 見えるかもしれないけれど、これはあくまでも一時的な仲直りで、2人はまたきっとケンカしてしまうんだ(笑)。つまり「JOLLY COMES HOME」と同じだね (笑)。

Q:「MELODY MOTEL」の歌詞のテーマについて教えてください?

グレン:この歌は、凶悪な殺人を重ねる犯人が、実は一見ごく普通の暮らしをしている(奥さんや子どもがいる)人間である、というのがテーマになっているんだ(車で田舎のモーテルへ出かけては売春婦相手の殺人を重ねる男が、妻 子のいる家に戻ってくつろいでいるというストーリー)。'with the key between her teeth'というところは、文字通りの解釈で、部屋のカギを口にくわえているということ。この曲のクリスの詞は特にイメージが鮮やかで、いつも歌いながら、モーテルの様子とか、歌詞で描かれている光景がくっきりと頭 に浮かんでくるんだ(といって、グレンはカギを口にくわえるジェスチャーをする)。

[補足] この質問は、実は、以前出ていた「FRANK」の日本盤の対訳では、 'with the key between her teeth'のところが、かなり大胆な性的メタファーとして訳されていたので(ここには書けません(笑))、気になってちょっと確認したみたのでした。少なくともグレンとしては、そのような意味ではな く、文字通りに解釈しているようです。

Q:「ANNIE GET YOUR GUN」という歌の内容がよくわからないのですが、いったい何について歌っているのでしょうか?

グレン:ぼくもさっぱりわからないよ(I DON'T KNOW!)(笑)。何なんだろうね(笑)。ぼくもクリスの書いた詞をすべて理解して歌っていたわけではなくて、何年も経ってから突然意味がわかるなんてこともよくあるんだ(これは おそらく「Song by Song」のインタヴューで初めてわかった歌詞の真意のことなどのことを言っているのだと思います)。この曲も、歌詞の意味はさっぱりわからないけど(笑)、火花が飛び散るような活気のある歌だから好きなん だ。この曲のタイトルも、映画からとられたものだね。


[インタヴューを終えて]
インタヴュー時間は、正味50分くらいだったでしょうか、本当にあっという間に過ぎてしまい、インタヴューというものの難しさを実感しました。今となっては、あれも聞いておけばよかった、これも聞いておけばよかった、ということばかりが頭に浮かびます。やはり、質問項目は事前に綿密に準備しておくべ きだったと思いました(笑)。また、相手が自分の大好きなミュージシャンであるということが、我を忘れさせる大きな要因にもなっていたのは間違いあり ません。しかしともかく、グレンはありがたいことに、自分ではなくクリスが 書いた歌詞についての重箱の隅をつつくような私の質問にも、とても丁寧に、 ときに真剣に考えながら答えてくれて、あらためて他人にはうかがい知ることのできないグレンとクリスのあいだの不思議な絆のようなものが感じられまし た。また、ちょっと気の利いたフレーズを、これはクリスの発明品(Chris' invention)なんだ、と教えてくれるグレンは、本当に敬意をもって自分の友だちのことを自慢しているようでした。一方で、ソロになってからの作詞作曲術についても、長年のクリスとの共作経験もあり、歌詞の内容をとても大切に考えている様子がよくわかり、スクィーズ・ファンとしては、とてもうれしい回答を得ることができたと思っています。素人によるつたないインタヴューで したが、お読みいただいた皆さんにとって、少しでもグレンの頭の中をのぞき見る機会になったとすれば幸いです。

タイコウチ