2006年11月1日水曜日

INTERVIEWING GLENN TILBROOK (1)

ミュージックプラントの野崎さんのご厚意で、先日来日したグレン・ティルブルックさんにインタヴューをさせてもらうことができました。最初にお話をいただいたときには、一ファンがそんな大それたことを、という気持ちもあったのですが、歌詞のこととか何でも自由に聞いてもらっていいですからと言われ、通訳もつけてあげるからということで、まんまと乗せられてしまいました (笑)。

通訳をしていただいた丸山京子さんには、たいへんお世話になりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。丸山さんは、『インスピレーション』(アミューズブックス;原題は『Songwriters on Songwriting』)という、米国の音楽ジャーナリスト、ポール・ゾロ(Paul Zollo)によるミュージシャンのインタヴュー集の翻訳もされているベテランの通訳・翻訳家です。

ちなみに、この『インスピレーション』という本でインタヴューに応えている ミュージシャンは、バート・バカラックからフランク・ザッパ、ブライアン・ ウィルソンからランディ・ニューマン、ボブ・ディランからトッド・ラングレ ン、キャロル・キングからマドンナまで、目のくらむような多彩さで、しかも 話題は歌詞のの解釈から、コード進行やメロディーの展開、曲と歌詞のどちらが先かなど、曲作りそのものに徹底的にこだわった充実の内容で、この分野では他の追随を許さないおすすめ本です(ただし、残念ながら日本語版は原著で取り上げている50人を越えるミュージシャンから、20人だけを抜粋したものと なっていますが、それでも500ページ近くあります!)。

さて、インタヴューを行ったのは、公演3日目の始まる前の夕方、会場でピアノの練習をしていたグレンに、主に曲作りのことを中心に、「Song by Song」 のブログで対訳にチャレンジした際に、いまひとつ理解できなかったいくつかのポイントなどについても細々と追求させてもらいました。それにしても、私が会場に着いたとき、グレンが何の曲を練習していたのか、記憶が完全に飛ん でいるというのが、まさに私の舞い上がりぶりを象徴しています(笑)。まっ たく「INTERVIEWING RANDY NEWMAN」のグレンの気分です。グレンと違い、一 応の質問メモは用意してありましたが(笑)。

インタヴューでは、私の質問、丸山さんの通訳、野崎さんの質問、グレンの答えが入り乱れ、4人がごちゃごちゃ雑談するような場面も多かったのですが、 以下では、読みやすさを考えて、私の用意した大まかな質問と、それに対する グレンの答え、さらに内容の補足という形でまとめさせていただき、実際の会話をそのまま再現しているわけではないことをお断りしておきます。

前半は、ソングライティングや最近の活動についていくつか一般的な質問をしており、後半でいくつかの歌の内容について具体的に触れています。

Q: ソロになってから、クリス・ブレイド(Chris Braide)、ロン・セクスミス(Ron Sexsmith)、エイミー・マン(Aimee Mann)などいろいろなミュージ シャンと共作していますが、作詞・作曲の分担はどのようになっているのか教えてください。

グレン:場合によりけりだけど、ロン・セクスミス(「YOU SEE ME」、「BY THE LIGHT OF THE CASH MACHINE」。たぶん「MORNING DEW」も?)やエイミー ・マン(「OBSERVATORY」)との場合は、彼らが書いてくれた歌詞に、ぼくが 曲をつけるというやり方だった。クリス・ブレイド(「UNTOUCHABLE」、「RAY & ME」)と作ったときはちょうど逆で、ぼくが先に歌詞を書いて、それをクリスに渡して曲をつけてもらったんだ。できてきた曲にほんのちょっと注文はつけたんだけどね(笑)。

[補足]「UNTOUCHABLE」は、今回の来日公演でも毎晩のように演奏していたこ とからもわかるように、グレンも最近の作品ではかなり気に入っているようで す。歌詞は一見ラヴソングのようにも思えますが、実はグレンと知り合ったクリス・ブレイドの心境を、グレンが想像して書いているというものです。グレンはクリスの才能を非常に高く評価しているのですが、同時に若い彼の才能に嫉妬して素直になれない気持ちもあったそうで、そんなグレンの屈折した様子を若い友人クリスの立場から、いわば自画像として描いたというのが、この歌の内容です。これは昨年来日したときに、ピーター・バラカンさんのラジオに 出演したときに、グレンが話していました。

Q: クリス・ブレイドと作った「RAY & ME」は、あなたの自伝的な内容と考えていいんですか?

グレン:そう、あの曲はまったくの自伝的内容で、ぼくが11歳のときの話なんだ。子ども時代からもう長いこと音信不通になっていたんだけど、あるときぼくのライヴに数十年振りにレイが来てくれたんだ。でも、彼からもらった電話番号のメモをなくしてしまったというのも本当の話なんだ(ここでグレンは、 メモをズボンの後ろポケットに入れたのに、なくなっちゃった、というジェスチャーをする)。

Q: 最近はあなたが1人で歌を作ることが多いわけですが、歌詞と曲のどちらが先にできるのか、一般的な順番がありますか?

グレン:クリスと長い経験があるから、最初に歌詞があって、そこに曲をつけるのが習い性になっているんだね。(現在のポップ・ミュージックの主流(曲が先)とは違うのはわかっているけど)すでにできあがった曲があって、その曲に詞を無理に合わせるようなことはしたくないと思っている。詞で伝えたい内容はやはり大事に扱いたいからね。

Q: あなたが詞を書く上で、特に影響を受けている作詞家はいますか?

グレン:ずっといっしょにやってきたクリス・ディフォードの影響は当然ながらすごく大きいね。まだまだ彼の域には全然及ばないけど。(「Hostage」、「Ray & Me」、「Domestic Distortion」などは素晴らしい歌詞だと思いますが、というと)どうもありがとう。でもそのあたりの曲はみんなクリスの影響 を受けていることがありありとわかるね(笑)。でも、クリスとぼくでは違うところもあって、クリスの書く詞は、特に最近は(たぶんスクィーズ後期から、最近のソロ作において)、シリアスな面が強く出ていると思うんだけど、 ぼくはユーモアのセンスをとても大切にしているんだ。

Q: クリス以外の影響はありますか?

グレン:エミネム!(笑) 彼のことは本当にすごいと思っている。どういうところがと言われると難しいんだけど(すごく真剣に考えて答えてくれようと している!)、彼のストレートな物言いがいいと思う。歌詞の内容については あまり好きじゃないところ(暴力的なところ?)もあるんだけど、とにかく自分の気持ちを率直に伝えようとしているところが良くて、ぼくもそんなふうに 詞を書きたいと思っているんだ。

[補足]
ユーモアのセンスを重視しているというグレンの作詞術は、例えば 「REINVENTING THE WHEEL」なんて曲を聴けばよ〜くわかりますが(笑)、作詞におけるクリスとグレンの違いといえば、他にも、クリスが得意としていた男女の葛藤のスケッチ(「KING GEORGE STREET」、「TOUGH LOVE」、「JOLLY COMES HOME」、「GREAT ESCAPE」など一連のDV系のもの)は3人称で書かれたものが多いのに対して、同じようなテーマを扱っていても、「HOSTAGE」は、 1人称の歌い手が当事者として目の前の状況を引き受けようとしている点に、 グレンらしさが現れているような気がします。基本的にグレンが書く詞は、1人称で歌い手と登場人物が(たとえフィクションであっても)重なるものが多いように思います。もっとも、クリスもスクィーズの後期やソロ・アルバムでは、一人称の告白調の歌詞が多くなっていますね。
また、昨年の来日時にも好きなミュージシャンとして、エミネムの名前を挙げていましたが、今回もクリス以外に影響を受けている人はとの問いに、最初に出てきた名前がエミネムでした。グレンとは一見結びつきにくいイメージで すが、作詞をする上で自分の気持ちをできるだけ直接的に表現したいという点 で、共鳴するところがあるようでした。

Q: スクィーズの初期の曲、「UP THE JUNCTION」、「VICKY VERKY」、 「PICCADILLY」などでは、1番、2番、3番と同じメロディがずっと続いて (途中1回だけメロディが展開するところがありますが)、構造的にいわゆるサビのない曲となっていますが、どうしてそのような曲を作ったのですか?

グレン:まずクリスからもらった詞が、非常に物語性の強い内容だったので、 それをきちんと生かすような曲にしたいと考えたんだ。お手本としては、ボブ ・ディランの初期の曲を念頭においてつくったんだ。(英国の古い伝統的なバ ラッドの手法に影響を受けているのでは、との質問に)そのとおり!と言いた いところだけど(笑)、とくにそういうのを意識してたわけじゃないんだ。やっぱりボブ・ディランだね。そういえば、最近BBCのアーカイヴで昔の古い歌 をまとめて聴く機会があったんだけど、スクィーズをやっていたときには、自分たちはまったく新しいスタイルで曲を作っていると思っていたけど、ある意味で昔からの伝統に則っていたところがずいぶんあるんだなと意外な発見があったよ。

Q: あなたはいろんなミュージシャンの曲をライヴでカヴァーしていますが、 どういう基準でカヴァーする曲を選んでいるのですか?

グレン:基本的には好きな曲なんだけど、やはり60年代にラジオで聴いていた 曲が多いね。そして、キャンプ・ファイアーの周りでギターをかかえて歌って盛り上がるような曲がいいね。(カヴァー曲のレパートリーは何曲くらいあるんですか、との質問に)しばらく前まで、カヴァー曲のレパートリーをリスト にして手帳に何ページか書きつけていたけど、どこかにやってもう忘れちゃっ た(笑)。
90年代はライヴでよくカヴァー曲をやってたんだど、一時的に(ソロ・アル バムを作ることになって)少し控えるようにしてたんだ。でも最近はまたカヴ ァーもよくやるようになってるけどね。

[補足] 関連して、いくつかカヴァー曲についての確認をしました。クリスト ファー・ホランド(Christopher Holland:ジュールズの弟)が「BROTHER SUN, SISTER MOON」で録音している「NO DISCO KID」という曲(クレジットは、ディフォード/ティルブルック)は、スクィーズの最初期の曲で、レコー ディングはしたけど、公式には発表されていない曲であるとのこと。
また、しばらくに出たポール・マッカートニーのトリビュート・アルバム (ロビン・ヒッチコックやフィン・ブラザーズが参加している)に、スクィー ズ名義で「JUNIOR'S FARM」(1974年のポール・マッカートニー&ウィングス のシングル曲)をカヴァーする予定になっていたというネット上の情報があるのですが、それについては、正式に録音したことはないけれど、初期のスクィ ーズのライヴではよく演奏していた大好きな曲なんだ。でも、そのトリビュー ト・アルバムの話はよく覚えていないなあということでした。おそらく企画段階で、スクィーズの方が解散してしまったので、グレン本人に話が伝わる前に流れてしまったのではないかと思います。

Q: スクィーズ時代には、コンパクトで印象的なギター・ソロのある曲が多か ったと思うのですが、ソロになってからの曲では、ギター・ソロが減っているように思います。ギター・ソロを弾くのに飽きてきたなんてことはありませんか?

グレン:そんなことはないよ。ギター・ソロは弾いてるはずだよ。(そこですかさず野崎さんが差し出したグレンのソロ・アルバム2枚の曲名リストを見ながら)うーん、そう言われれば、少ないような気もするね(笑)。「ONE FOR THE ROAD」とかは全編ギターだけどね。あと「MORNING」でも弾いてる。ギタ ー・ソロを弾くことに飽きてるなんてことは別にないよ。