2010年12月23日木曜日

ANOTHER NAIL IN MY HEART



初期の代表曲のひとつで、最新作「SPOT THE DIFFERENCE」でもリメイクされた「ANOTHER NAIL IN MY HEART」は、1980年のアルバム「ARGYBARGY」からの1曲で、グレンのソロ公演でもおなじみの定番曲です。そうか、「ARGYBARGY」からの曲は、「PULLING MUSSELS (FROM THE SHELL)」も含めて、ちょうど30年振りの再録になるわけです。どちらの曲も、歌のメロディをただなぞるのではない、創造的でとても印象に残るギターソロが含まれていますね。

ところで、この歌詞のちょっと変なところは、タイトルが「ANOTHER NAIL IN MY HEART」なのに、歌の中で繰り返されるのは「another nail for my heart」と、前置詞だけがちょっと違うところです。日本語ではあまり違いを出しにくいのですが、あえていえば、「another nail in my heart」は、文字通りくぎが心に突き刺さっている即物的なイメージですが、「another nail for my heart」は、もう少し抽象的に、くぎが心への致命的なダメージとなって残っているという感じでしょうか。でも、なんでタイトルと歌詞の中のフレーズが微妙に違うのか、積年の謎のひとつであります(笑)。

ちなみに、英語には「another nail in the coffin」という言い方があり、文字通りは「棺桶のふたを閉めるのにもう1本くぎを打つ」ということから、ことわざ的に「とどめを刺す」とか「死に至る原因をつくる」という意味で使われます。くぎと煙草のかたちの類似から、煙草を吸っている人に対して、嫌味で「another nail in your coffin」といったりすることもあるみたいです。「ANOTHER NAIL IN MY HEART」も、この表現のもじりで、彼女との別れによって僕の心に致命的な傷が与えられるという、というような意味なのでしょう。

この歌で、もうひとひねりあるのは、「Another Nail For My Heart」が、まるでスタンダード・ナンバーのタイトルであるかのように、失意にある歌い手が、バーのピアノ弾きにリクエストするという設定になっているところです。「カサブランカ」という古い映画の中で「AS TIME GOES BY」という思い出の曲を、バーのピアノ弾きのサムに弾かせる弾かせないをめぐってかわされる、ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンの緊迫したやりとりを、つい連想してしまいます。「Another nail for my heart」も、この歌の物語の中では、聴くと辛い気持ちになるのですから、きっと「AS TIME GOES BY」と同じように、どうしても彼女のことを思い出してしまう曲として、聴きたくもあり聴きたくもなし、という意味合いを持っているのでしょうか。



「僕の心にとどめを刺す1本のくぎ」

ベッドの下からスーツケースを引っぱり出し
気の合う友だちに電話して
彼女は手はずを整えた
閉めたドアには書き置きのメモ
別に気にするようなことじゃない
これで胸のつまるような思いをすることもなくなる
言い争いをすることがなくなるから
どこに行ってたの、と尋ねる彼女は
いつも遠くを見るような不機嫌な顔だった
うまく機嫌をとろうと思っていたんだ
しばらく彼女から距離を置こうとしてね
そんなわけで、このバーで
ピアノ弾きが見つけてくれた
「僕の心にとどめを刺す1本のくぎ」

あのいまいましいばい菌は
愛だけをだいなしにする
僕は正直でいたいと思うけれど
それだけじゃだめなんだろうか
だから僕のためにあの曲を弾いてくれないか
とても辛い気分になるけれど
「僕の心にとどめを刺す1本のくぎ」
僕のためにあの曲を聴いてくれないか
とても辛い気持ちになるけれど
「僕の心にとどめを刺す1本のくぎ」

子どものつく嘘みたいな言い訳をした僕
そんな僕の目を見て彼女は冷静に判断を下し
きっぱりこう言った
いつも気持ちを傷つけられてもうがまんできないって
彼女は化粧を落とし、僕はバーを見つける
今僕に必要なのはここしかない
ひどい経験だった
これで愛はおしまい
僕がばかだった
彼女を愛し、そして別れを告げてしまった
そんなわけで、このバーで
ピアノ弾きが見つけてくれた
「僕の心にとどめを刺す1本のくぎ」
そして、このバーで
ピアノ弾きが見つけてくれた
「僕の心にとどめを刺す1本のくぎ」


(訳:タイコウチ)