2006年9月19日火曜日

MELODY MOTEL

88年のアルバム「FRANK」から、軽快なロックンロール「MELODY MOTEL」を紹介します。歌詞の内容は、ゴシック・カントリーというか、市井のスキャンダルを扱ったいわゆる三面記事ものといえるでしょうか。この手の殺人事件をテ ーマにした歌は、イギリスの古いバラッドの時代から、現代のフォーク、カン トリーにいたるまで、英語圏では根強い伝統があるようです。 マザーグース 調でちょっと色合いは違いますが、ビートルズの「MAXWELL'S SILVER HAMMER」なんて歌も、基本的には同じ流れにあるのではないかと思います。

要約すれば、田舎へ出かけていっては、出会った女をいたぶって殺す猟奇殺人鬼の話。家に帰れば何も知らない妻と子どもがいるという不気味さ。メロディ ・モーテルとは、知る人ぞ知るその手の売春宿という設定なのだそうです。

グレンによると、普通ならドラムが走ってしまうタイプの曲なんだけれど、ギルソン・レイヴィスはあえてリズムをタイトに抑え、その周りで他のメンバー がスウィングしている、というサウンドになっているとのこと。このアルバム 「FRANK」は、ギルソンのドラムだけでなく、全体の演奏があえて作り込まないナチュラルなバンド・サウンドになっていて、個人的には好みです。同時期に同じような音作りでトーキング・ヘッズの「LITTLE CREATURES」や「TRUE STORIES」を手がけていたエリック・ET・ソーングレンが、グレンと共同でプ ロデュースをしています。

タイコウチ


「メロディ・モーテル殺人事件」


男は車でモーテルまでやってきた
ご自慢のリゾート・カーに乗って
男手に交じって野作業をしている
女たちのことを男は眺める
男はロビーに入っていく
どうぞよろしくと愛想のいい笑顔を浮かべて
受付で名前を書きこむ
もちろん偽名で そしてにやりと笑う
若い女の子の足音が
廊下の方から聞こえてくる
男の顔は壁際で影になり
顔立ちがよくわからない
不安そうに立ちつくす女の子の顔に
ネオンライトが反射して
色とりどりに点滅する
今宵の暗闇のなか

男の顔の肌は
まるで使い込まれたサドルのよう
おやすみと、彼は微笑む
ここメロディ・モーテルでは
いつものよくある話
そして女の子たちは目にためた涙をぬぐうことになる

男はシャツをベッドのわきに脱ぎ捨て
ジーンズは足下まで下げている
彼女は息をつまらせて、もごもごと音を立てるだけ
歯と歯のあいだには部屋の鍵をしっかりとくわえたままで
つけっぱなしのテレビでは
ちらつく画像がゆっくりと動いている
どら猫が裏道で鳴き声を上げる
そこにいるのは二人だけ

男は車で自宅にもどってきた
ご自慢のリゾート・カーに乗って
男の妻はチキンを調理している
腕には赤ん坊をかかえて
手作りの家庭料理の匂いが
今宵家の中を充たす
テレビのちらつく画面では
「お笑いディブル巡査」をやっている

お気に入りの肘掛けいすにゆったりと座る
男の顔は石のように青白く
テーブルにのせた足のわきには
食べ散らかしたチキンの骨
まったくの無表情で
歯にはさまったコーンをほじる
警察がようやくモーテルに到着したのは
シーツについた血が乾ききった頃だった

(訳:タイコウチ)


英文の歌詞はこちら