2006年9月12日火曜日

A MOVING STORY

前回の「UP THE JUNCTION」の後日談ということで、スクィーズのラスト・アルバムとなった「DOMINO」から「A Moving Story」を紹介します。タイトル は、やはりかけことばで、「引っ越しの話」とも「ちょっといい(感動する)話」ともとれます。離婚して、一人娘を連れて、長年住みなれた町をはなれた 女性が、行き着いた海辺の町でパブのウェイトレスをしながら、バンドをやっ ている年下の男と出会い、やがて新しい人生が始まるという、クリスお得意のプチ人生劇場といえるでしょう。ミドル・テンポの軽やかな曲調に、クリス・ ホーランド(あのジュールズの弟)のオルガンがからみ、グレンのソフトなヴ ォーカルが、海辺の町で新しい暮らしを始める女性の姿を淡々と物語っていき ます。

タイコウチ


「引っ越しの話」

彼女はクラパムの出身だった
故郷をふりかえることはなかった
彼女の人生は一瞬にして変わってしまった
荷物をヴァンに詰め込んで
ひもでくくりつけた
これまで住んでいた家はもう他人の家のよう
玄関前の階段で
知り合いたちにお別れのキスをする
心にぽっかり穴があいたよう
荷物でいっぱいになった車の前座席に乗りこむ
近所の人たちは電話するからと彼女にいう

海辺の町へやってきた
海岸の小石に波が打ちよせてくる様子が
とても素敵だった
一人娘との新しい生活がここで始まる
結局独り身になったのも悪いことじゃあない
やがて夏がおとずれ
この町も活気づいてきた
夕暮れどきになると桟橋には灯りがともり
潮風が香る
こんなに素敵な気持ちは
まるでナイフで切り取ることができそうなくらい

彼女はパブで働きはじめた
店の隅の小さなステージでバンドが演奏する
オンボロ機材を運び込むのを
彼女はながめている
演奏が始まると店の中はまるでサウナのよう
ロンドンでの生活はもう思い出すこともない
ここでの新しい日々が充実していたから
何かが始まる運命を感じた
バンドで演奏していた男を好きになり
そして彼女の人生はドラマになった

彼女はクラパムの出身だった
もう振り返ることはない
過去はきれいさっぱり忘れてしまった
彼はずいぶん年下だけど
そんなことは気にならない
彼は訛りの強い英語で一生懸命しゃべる
彼の愛を感じながら
これまで忘れていたやさしい気持ちが
自分にもどってきてうれしく思う
ベッドでふたり横になり
外に降る雨をながめている
もう引っ越しはしない 荷造りもしない

彼女はクラパムの出身だった
故郷をふりかえることはなかった
彼女の人生は一瞬にして転機をむかえた

(訳:タイコウチ)

英文の歌詞はこちら