2006年10月2日月曜日

JOLLY COMES HOME AGAIN

93年の充実作「SOME FANTASTIC PLACE」から、妻を抑圧する男と愛情の再生を描いた「JOLLY COMES HOME」です。一連のDVものの中では、詞と音楽ともに、この曲の完成度がいちばん高いのではないでしょうか。ただこの曲では、男からの暴力はあからさまに身体的なものではなくむしろ心理的なものであり、虐げられてきた女の側からの反抗としての突発的な暴力(おそらく夕食の皿を男にぶちまけた)が描かれているのだと思います。DVものというよりも、むしろ家庭で抑圧されてきた女性が思わずキレてしまった事件の顛末を描く「WOMAN'S WORLD」の流れを直接くんでいると言った方がいいかもしれません。その点では、「KING GEORGE STREET」も同じですね。

ずいぶん前から訳してみたいと思っていたのですが、思いのほか難航してしまいました。サビの'Wearing his dinner this evening/Jolly comes home again'という部分がどうにもうまく訳せなかったのです。ディナーを着る? ディナー・ジャケット?「ジョリー」は男の名前なのか?家に帰ってくるって、家にいるんじゃないの?などなど。私が試行錯誤したプロセスは長くなるので省きますが、最終的には下のような解釈にたどりつきました。タイトルだけは、日本語としていまひとつ据わりが悪く、いまだに納得がいかないのですが、グレンの来日も間近に迫り、とりあえず踏ん切りをつけました(笑)。なお、後半に出てくる「オリーブの枝」という表現には、和解の象徴という意味があります。
 
それにしても、テレビのチャンネル権を握って、パシパシとリモコンでチャンネルを変えている男に、まるで映画の検閲でもしているつもりかと突っこむクリスのペンの辛辣さは、これまであまり見られなかったものではないでしょうか。
 
この詞に曲をつけたグレンの情感あふれるメロディと本人の歌唱はもちろん特筆ものなのですが、94年のスクィーズ初来日公演では、ドラムスのピート・トーマスまでが、マイクもないのにいっしょに口を動かして歌っていたのを覚えています。ピートがスクィーズに助っ人で参加するにあたって、(ドラムを叩くのに)レパートリーの歌詞を全部知っておきたいからファックスしてくれとクリスに頼んだというエピソードは、すでに野崎さんが紹介していましたね。シンバルを叩いたスティックの先が欠けて飛んでしまうほどに、まさに入魂のドラミングでした。

タイコウチ


「陽気で愉快な男の帰還」

女は男の襟首をつかんで泣きわめいている
男の胸を叩きながら
男は無表情をくずさない
二人の愛はいま試練のときを迎えている
男は自分が女を幸せにしてきたはずだと思っている
ただいっしょに暮らしてきたというだけで
沈黙が長引くほどに
女の悲しみは深まるばかり

愛情は沈黙によって損なわれてしまう
鎖のついた鉄球に縛りつけられて
かつてはあれほど従順だった愛情が
暴力に変わってしまうこともある
今夜自分の夕食を投げつけられて 
陽気で愉快だったあの人がこの家に戻ってきた

強情な男はヒーターのそばに陣取っている
家のことはすべて自分が決める
テレビのチャンネルを気ままに回して
映画の検閲でもしているつもり
女は直感につき動かされて
平凡だった自分の人生を爆発させる
ソファから勢いよく立ち上がり
これまでの憤懣を男にぶちまける

真っ暗に静まりかえった部屋で
ベッドに並ぶ二人のからだ
女の細い腰の上に
今宵和解を告げる1本のオリーブの枝がおかれる
男はすまないとあやまりたいと思い
女は男が許しを請うことを望んでいる
耐え忍んできたこの苦しみを償わせるために
彼女の心は深く傷つけられてきたのだから

(訳:タイコウチ)