2009年1月5日月曜日

ROSE I SAID

アルバム「FRANK」からのこの曲は、以前紹介した「NO PLACE LIKE HOME」とほぼ同じ状況で、浮気のばれてしまった男が、妻にはげしく責められている歌です。かなり言葉数の多い歌詞ですが、グレンがたたみかけるように「危機的な状況(笑)」を歌いきっています。

クリスの書いた歌詞は、やはり細部の描写が面白く、とくに、最初に平手打ちされたときに食べていて、口からあたりに飛び散ったサンドウィッチが、2番の歌詞では、口に残っていた分をようやく飲み込み、さらに3番では、まだ歯にはさまっていたパンのかすを舌で取り除こうとしている、という連続性に妙なこだわりが感じられ、なんだか笑えます。あるいは、こういう真に「危機的な状況」においては、かえってそういう無意味な細部に気をとられてしまうという人生の真実が、見事に描写されているというべきでしょうか。

タイコウチ


「ローズ、とぼくは口にした」

彼女に平手打ちされた瞬間に、ぼくは思わず「イエス!」と叫ぶ
口の中のサンドウィッチがそこらに飛び散る
彼女は竜巻のように立ち去り、ドアは当然のごとくバタンと閉められる
わけもわからずキッチンに立ちすくむぼく
彼女の足音がドシンドシンと階段を上がっていく
猫がリビングの椅子の下へ逃げ込む
でも何が問題なのか、いったい何が悪かったのか
顔を引っぱたかれるような理由なんて全然思いつかない

ローズ、とぼくは口にした
僕たちのしてることなんて誰にもばれないさ
ローズ、とぼくは口にした
橋の下に水は流れるというじゃないか
ローズ、とぼくは口にした
これがほんとの恋なのかは神のみぞ知る
ローズ、とぼくは口にした
もう幕は下りて、台本を読む時間だ

ベッドのわきに行くと、涙を目にためた彼女が横になっている
タンスの引き出しは開けっ放し、服がそばに落ちている
部屋のすみには放り出したスーツケース
サンドウィッチを飲み込んだぼくは、彼女の靴を拾いあげる
女優のように振り返りざま彼女がぼくをにらみつける
いったいどうしたんだよ、今日ぼくが何をしたというんだ
彼女は通り向かいに住む女の子の名前を吐き出すように言う
鼻をふくらませた彼女の様子を忘れることはできないだろう

ローズは、通勤途中にたまに車で送ってやってるだけ
法律事務所の研修生なんだ
何回か街のパブでお昼をいっしょに食べたことはあるけど
ただの友だちで、何も特別な関係じゃないんだ
もちろん彼女のことは嫌いじゃないけど、それだけなんだ
ぼくは茫然自失としてベッドサイドに佇む
彼女は今日会った女友だちに全然違うふうに聞いていた
ぼくと彼女が裏通りでキスしてるのを見たって

ぼくはまるでジキルとハイドじゃないか
今度こそ自業自得だ
ぼくは歯にはさまったパンを舌でほじくる
窓辺から通りをはさんで彼女の家が見える
罪悪感はあるが、嘘をつきとおそう
どうせたいした違いはない
ベッドで泣く彼女を残し、ぼくはうなだれて部屋を出る
もう幕は下りてしまったんだ
舞台のそでにワンピースを着たかわいいローズが立っている

(訳:タイコウチ)