2008年12月18日木曜日

UNTOUCHABLE

グレンの2枚目のソロアルバム「TRANSATLANTIC PING PONG」の冒頭を飾り、シングルカットもされたこの曲は、一見すると、なかなか心を開いてくれない恋人に向けたラヴソングのように聴こえるかもしれませんが、それだけの解釈では、何かものたりない気がします。というか、相手が恋人にしては、「きみが好き」というようなわかりやすい表現が全然なくて、「友情をこめた威嚇射撃」なんて、恋愛感情というよりも、かたくなな相手を何か説得しようとしつつも、いささかうんざりしているような気配すらします。

さてこの曲はいったい何を歌っているのか、その答えは、以前グレンが来日した際にピーター・バラカンさんのFM番組に出たときのインタヴューで明かされています。そもそもこの曲は、イギリスの若手シンガーソングライター、クリス・ブレイド(Chris Braide)との共作なのですが、グレンが詞を書いて、クリスが曲をつけたものだそうです。実はグレンは、この新しいパートナーである若きクリスの才能に嫉妬していたというのです。そのせいで、ふたりが知り合ってからしばらくは、グレンの方が妙なこだわりを持ってしまい、なかなか素直に打ち解けることができなかったときの様子を、逆にクリスの立場に立って描いてみたのが、この歌詞の内容なのです。つまり、なんできみは素直に心を開いてくれないのだろう、きみの心に触れることが許されないのはなぜ、と年上の友人グレンに対して若いクリスが悩み、説得を試みているということなのです。

ああ、なんてひねった歌詞の作り方なのでしょう(笑)。これはさすがに作った本人に説明されなければ、ふつうは読み解けませんよね。もちろん、ちょっと変わった恋愛ものとして聴いてもいいのですが。

スクィーズ時代に、グレンに対してクリス(ディフォード)が正直な気持ちを直接伝えられなくて、グレンに渡す歌詞に託して伝えようとしていたというのは、今となっては有名な話ですが、この曲でグレンは、自分が素直になれない相手(クリス・ブレイド)は、きっとこんな気持ちで自分のことを見ているのだろうと想像し、相手から見えているであろう自画像を描いているわけです。クリスの悪い病気がグレンにうつったというべきか、手の込んだグレンの作詞術に感嘆すべきなのか。もちろん後者なのです(笑)。

タイコウチ 



「きみの心に触れることができない」

とにかく、きみがもっと心を開いてくれないとどうしようもない
ぼくは冷静に受け止めてあげるから
きみの気持ちがわからなければ何もしてあげられないよ
きみはぼくに秘密を打ち明けようとはしてくれない

きみはぼくに興味を持ってくれた
ぼくが外から中にいるきみをのぞきこんでいたときに
それなのにいったいどうして
きみの心に触れることができないのだろう
きみの心に触れることができないのだろう

きみの最大の敵は、そんなふうにしてるきみ自身なんだ
そのことはよくわかっているはず
きみが自分から考え直さないかぎり、ぼくにできることはない
他の誰でもない、きみこそが

最後の一線を越えてしまったら、もう戻れないと怖がってるの?
もはや焼き捨てる橋もなく
きみの心に触れることができない
きみの心に触れることができない

一日中大声でわめきちらすのもいい
きみはますますそんな感じだけど
こんなきみではなかったはず
いったい何を気にしてるんだい

これがいったいどういうことなのか、ぼくにはいつまでたってもわからないだろう
きみがぼくを信じてくれなければ
これはぼくからの友情をこめた威嚇射撃なんだ
きみがぼくに口をきいてくれるように

きみは明らかに問題を抱えている
ぼくから言えることはすべて言ったつもり
ボールはきみのコートに入ったのだから
今度はきみが叩き返すか、そこから立ち去るか
ぼくたちはゆっくりと別れていくことだってできる
策略をめぐらしたってそう長くはもたない
ここから始められるかどうかは、すべてきみ次第なんだ
きみの心に触れることができない
きみの心に触れることができない

(訳:タイコウチ)